「なんでそんな言い方をされたんだろう…」
「本当は叱る必要があったのに、何も言えなかった…」
現場では、“叱るべきか・叱らないべきか”に迷う上司が増えています。
時には、厳しく伝えなければならないこともある。でも、それが「ハラスメント」と捉えられてしまうこともある。部下のためを思っての言葉が、信頼を壊してしまうリスクもある――。
そんなジレンマに向き合う方に向けて、今回は『ハラスメントにならない指導とは?叱るときも信頼を失わない、伝え方とレジリエンスの育て方』をお届けします。

「叱らない上司」ではなく「伝えられる上司」になるためのヒントを詰め込みました!
- 叱り方に悩む管理職の方へ
- 若手育成に行き詰まりを感じる方
- 部下との信頼関係を築きたい方
指導とハラスメントの“境界線”が曖昧な時代
「これくらい言わなきゃ伝わらない」
「昔はもっと厳しかった」
こうした価値観が通用しない時代になりました。
指導が必要な場面でも、“言い方”や“タイミング”を誤れば、相手は心を閉ざし、離職リスクすら高めてしまいます。いま求められるのは、相手の人格を守りながら、必要なことを“伝える”技術です。
厳しさが悪なのではなく、“どう伝えるか”がすべて。怖さではなく、信頼で伝える時代です。
【注意の極意】人格否定にならない「叱る」スキル
叱る場面では、“相手の感情”より“自分の感情”が暴走しがち。しかし、本来の目的は「行動改善」であり、相手を責めたり、怒ることではありません。
- 事実に基づいて話す
- 人格ではなく行動に焦点を当てる
- 未来志向で終える
原則①|事実に基づいて話す
まず一つ目の原則は、「事実」をもとに伝えることです。たとえば、「最近ちょっとルーズだよね」といった曖昧な指摘では、受け手は「何が問題なのか」がわからず、モヤモヤだけが残ってしまいます。
一方で、「今週は3日間、日報の提出が確認できませんでした」といった事実ベースの指摘なら、「それは確かにそうだな」「たしかにミスだった」と、受け止めやすくなります。指導のときこそ、感情ではなく“観察された事実”に立ち返ることが大切です。
最近ずっとダメだよね
今週、日報が3日間出ていませんでした
ちゃんとしなさい
報告の提出時間が遅れているのが気になります
- 指導の前にログ・記録・メールなどで客観的事実を確認する
- できるだけ「数字」「日付」「回数」などを使って伝える



「なんとなく不満」ではなく、「具体的に困ったこと」を伝える。それが信頼される叱り方の第一歩です
原則②|人格ではなく行動に焦点を当てる
二つ目の原則は、「その人自身」ではなく「その人の行動」に目を向けることです。たとえば、「あなたは本当にだらしないね」という指摘は、人格への評価になってしまい、言われた相手は深く傷つくばかりか、「私はダメな人間なんだ」と自己否定に向かってしまう危険性があります。
これを、「最近、報告の時間が少し遅れ気味なのが気になっていて」という言い方に変えるだけで、「直せる話だ」「改善の余地がある」と、建設的な会話になります。
本当にだらしないよね
報告が遅れることが続いているけど、何か困ってることある?
やる気が感じられない
最近、業務に集中できていないように見えるけど、なにか心配事がある?
- 「あなたは~」より「〇〇という行動が~」のフレームで話す
- フィードバックシート等では「事実」と「その影響」をセットで記述する(例:「報告の遅れ」→「チームの進行に支障が出ている」)



“行動”なら変えられる。叱るときの一線はそこにあります
原則③|未来志向で終える
三つ目の原則は、「未来に目を向けて終えること」です。叱る場面では、つい過去の出来事をなぞって終わってしまいがちです。
「どうしてあんなことをしたの?」
「また同じミスをしたね」
そんな言葉で終わると、相手は反省や後悔の感情だけを残し、前に進む意欲を失ってしまいます。
そこで、「次は一緒に段取りを見直してみよう」「どうしたら次はうまくいくか、一緒に考えよう」と、次につながる言葉で終えることで、叱ることが“希望”に変わります。
もう任せられない
次は計画の段階から一緒に確認してみよう
こんな簡単なこともできないの?
ここはもう一度一緒に復習しておこうか
- 指導の最後に「期待の言葉」「次の提案」を添える
- 「一緒にやってみよう」というスタンスで、上司の伴走姿勢を示す



次の一歩を残して、指導を育成にかえましょう!
小さな意識で、叱り方は変えられます。叱ることに苦手意識を持つ方も多いと思いますが、この3つの原則を意識するだけで、相手の受け止め方は大きく変わります。
事実に基づいて、人格を否定せず、未来につなげて終わる
この3ステップは、叱ることへの恐れを減らし、信頼を深めるための“型”になります。上司として、リーダーとして、迷ったときこそ、この基本に立ち返ってみてください。
【褒める極意】承認と信頼を積み上げる“具体的な言葉”
「褒めるのが苦手」という上司は少なくありません。
ですが、部下が求めているのは大げさな称賛ではなく、“自分の努力や行動を見てもらえている”という実感です。この実感が、信頼とやる気を育て、叱ったときにも「この人はちゃんと見てくれている」と思える土台になります。
大切なのは、抽象的な褒め言葉ではなく、「行動」と「その影響」をセットで具体的に伝えることです。それだけで、褒め言葉の説得力と効果は格段に上がります。
すごいね!
お客様の質問に対して冷静に対応していて、とても安心感がありました
いい感じだった
資料の構成が論理的で、会議がスムーズに進行できたよ
がんばってるね
昨日、急ぎのタスクを引き受けてくれたの、本当に助かりました
- 日報や会話で気づいた行動をメモしておく
- 「行動+効果」をワンフレーズで伝える習慣をつける



「褒めよう」ではなく「良い点を伝えよう」とする意識が大切です
【土台づくり】レジリエンスを育てる職場とは
「言ってることは正しい。でも心がついていかない」
これは、今多くの現場で起きている課題です。
いくら上司が丁寧に、論理的に指導しても、受け手側の心が“折れやすい状態”にあると、言葉は届きません。今の時代に必要なのは、「折れない心」ではなく、「折れても戻れる心」です。
レジリエンスを育てる職場環境とは?
失敗やミスが“学び”として共有できる文化
→ 「なんでミスしたの?」ではなく、「何が起きたか一緒に振り返ろう」
→ “ミスは価値ある経験”というスタンスで接することで、失敗が成長の機会になる
上司・同僚との信頼関係を築く機会
→定例の1on1や、雑談タイムなどの機会を通して立ち直りやすくなる
感情を言語化できる工夫
→ 絵文字などの感情を表すコミュニケーション方法を用いて不調や変化に早く気づく組織に
- 絵文字や表情マークなど、簡易に気分を伝えるツールの導入
- 管理職向けに「レジリエンス対応研修」を実施し、関わり方を標準化
【まとめ】“伝えられる関係性”を、日々の対話から
叱り方・褒め方・伝え方――
どれも技術として磨くことはできますが、それ以上に大切なのは、土台となる「関係性」です。
「この人が言うなら、ちゃんと聞こう」
「ちょっと厳しい言葉だったけど、信頼されてるんだな」
そんな風に感じてもらえるには、日常的な関わりの積み重ねが欠かせません。上司の何気ない一言が、部下の自己肯定感を支え、指導の受け止め方まで変えてしまうことは、決して珍しくないのです。
「叱ること」に正解はありません。
ですが、“この人が言うなら受け止めよう”と思える関係性があれば、どんな言葉も届きます。
だからこそ、日々のコミュニケーション――
・気づきへの声かけ
・小さな承認
・さりげない雑談
これらの積み重ねこそが、叱っても信頼を失わない土台になります。