働きやすい会社とは、どんな職場でしょうか。
給与が高い、福利厚生が手厚いといった条件面だけでなく、「人間関係が良い」「ミスしても怒鳴られない」「ライフイベントに柔軟に対応してくれる」といった「目に見えない働きやすさ」が、今の時代はますます重視されています。
とはいえ、「どうすればそんな職場をつくれるのか分からない」と悩む企業も少なくないですよね。そこで注目したいのが、制度設計と職場運用を担う労務の力です。
今回は、社員が安心して力を発揮できる職場づくりをテーマに、働きやすい会社にするために労務ができることをお届けします。
中小企業こそ、ひとりひとりの働きやすさが業績に直結する時代。制度は、活用されてはじめて意味があります。

小さな工夫が、働きやすさの土台になります!
この記事はこんな方におすすめ:
定着率を上げたい中小企業の経営者
社員が活き活きと働ける制度設計をしたい人事担当者
制度を形だけで終わらせたくない労務・社労士の方
- 定着率を上げたい中小企業の経営者
- 社員が活き活きと働ける制度設計をしたい方
- 制度を形だけで終わらせたくない方
「心理的安全性」を制度で支える
心理的安全性は、Google社の「効果的なチームの条件」としても有名になった概念で、「自分の意見を安心して言える」「失敗しても非難されない」空気のことです。
以下の3つのアプローチにより、この雰囲気を運任せにせず、制度として整えることが可能です。仕組みづくりの参考にしてください。
① 1on1ミーティングの制度化で「話すことを当たり前」に
上司と部下の1対1の対話を制度化することで、業務以外の不安や悩みも拾える土壌が生まれます。頻度は月1回〜2回を基本とし、内容は「部下が話すのが主役」とする構成に。
社員の孤立感を減らし、「相談するのが特別なことではない」という職場文化を育てていきましょう。
面談やフィードバックにおける「言い方ルール」の整備
評価面談や日常の指導において、何気ない一言が社員の心を深く傷つけることもあります。だからこそ、「どう伝えるか」も制度の一部として周知しておくことが重要です。
たとえば、「指導の目的」と「伝え方の工夫」を記載した面談マニュアルを作成するのも効果的といえます。社員にとって「話しかけやすい」「失敗しても聞いてもらえる」上司を増やすことが、結果的に離職防止にもつながります。



打たれ弱い社員に対してはどうすれば…



凹んでも立ち直る、レジリエンスを育てる工夫もできたらベストです!


③ 相談できる人を明確化し、声の届くルートを複数持つ
「困ったとき、誰に言えばいいか分からない」状態をなくすことが第一歩。外部窓口の設置が難しい場合でも、社内で相談先を見える化するだけで安心感は高まります。
たとえば
- 直属の上司以外にも相談できる「相談担当者」の設置
- 月1回の無記名アンケートで声なき声を拾う(Googleフォーム等)
- 「相談しても不利益はない」ことを明文化して社内掲示やリーフレットで共有
などがあります。また、顧問社労士が中立的な立場を意識して「一次相談対応」に入るなど、小規模でも実現可能な体制構築も検討できます。
柔軟な働き方の整備
社員のライフスタイルが多様化する今、「決められた時間に、決められた場所で働くこと」が当然ではなくなっています。柔軟な働き方の選択肢を用意することは、働きやすさを大きく左右します。
具体的には、
- フレックスタイム制度の導入(コアタイムあり/なし、どちらも可能)
- 時間単位年休の導入により、家庭都合での外出などにも対応
- 短時間正社員制度で、週30時間の正社員雇用など柔軟な人材活用
- 在宅勤務・テレワーク制度の整備とガイドライン化
制度を整えても「実際に使えるか」は別問題。特に重要なのは、使いやすい雰囲気づくり(心理的安全性)と、管理職への理解促進です。
柔軟な働き方に関してはこちらの記事も参考にしてみてください。


評価・キャリア制度の透明性を高める
評価制度の不透明さは、不満や離職につながる大きな要因です。社員が納得感を持って働けるためには、「何をすれば、どう評価されるか」が明示されていることが必要です。
とはいえ、「評価制度」や「キャリアパス」という言葉を聞くと、「うちみたいな小さな会社では無理」「社員によって業務がバラバラだから制度化できない」と思われる方も多いのではないでしょうか。実際、中小零細企業では、営業・事務・現場作業を一人が兼ねていたり、日々の状況で担当が変わるなど、役割を厳密に定義しづらい現実があります。
それでも、「評価の軸が曖昧」「何を求められているか分からない」という状態のままでは、社員は不安を感じやすく、モチベーションの低下や離職につながりかねません。
だからこそ、「制度化しないといけない」と構えるのではなく、“まずは見える化”することから始めるのが、実現可能で現実的な第一歩だと思います。たとえば次のようなことから始めてみるのはいかがでしょうか。
- 会社として大切にしたい行動や姿勢を5つ程度に絞って言語化する(例:あいさつ、報連相、協調性、改善提案など)
- 半期ごとの「行動目標シート」で、社員と一緒に目標を立て、振り返りを行う
- ざっくりとしたキャリアステップ(入社1年目、3年目…)を見える化し、今後の方向性を共有する
これだけでも、社員の不安は大きく減り、「評価されている」「見てくれている」という実感につながります。評価は人を線引きするためのものではなく、「働きぶりに応えるコミュニケーション」という意識で日々の積み重ねができるとよいですね。
ハラスメントのない職場づくり
冒頭の心理的安全性にも通じますが「うちは人数も少ないし、ハラスメントなんて無縁」と思っていても、悪気のない一言や昔ながらの指導が、社員の離職やトラブルにつながることもあります。
まず取り組みやすいのは、NGワードと言い換え例をまとめたシートを作り、管理職に配布すること。
「やる気あるの?→こうしてもらえると助かるよ」など、伝え方を工夫するだけで職場の雰囲気は大きく変わります。
さらに、「うちはハラスメントを見逃しません」と会社の方針を言葉にして伝えることも大切。就業規則や朝礼などで、社員が安心して働ける職場づくりの姿勢を示しましょう。
働きがい・貢献実感のある環境づくり
働きがいというと、「やりがいのある仕事」「裁量がある働き方」など、大企業や専門職をイメージしがちですが、中小企業でも十分に働きがいを感じられる環境はつくれます。ポイントは、「自分の仕事が誰かの役に立っている」と社員自身が実感できること。つまり、“貢献が見える・感謝される仕組み”があるかどうかです。



余談ですが、私もお客様から直接「ありがとう」って言ってもらえると、「この仕事しててよかったな」と思います…!
まず簡単に始められるのが、「ありがとう」を伝える文化の促進です。
たとえば、紙のサンクスカードを作ってみたり、日報やチャットで「○○さん、助かりました!」と称賛し合う欄を設けるだけでも、職場の空気が温かくなります。
制度として立派である必要はありません。むしろ、温度感のある“日々の習慣”として定着することが、働きがいを支える最大の要素です。
そして、経営者や上司の一言も強力な要素です。ぜひ「この前の対応、すごく良かったね」と伝えてみてください。
健康と働き方の両立支援
「健康経営」や「メンタルヘルス対策」と聞くと、専門家の導入や手厚い制度が必要だと感じてしまいがちですが、
最も大切なのは、「無理をしなくて済む働き方」を日常的に実現していくことです。
まず基本として意識したいのは、長時間労働や残業の偏りに早く気づける体制づくり。小さな職場こそ、個々の働きすぎを“見える化”しないと、無自覚な疲弊が蓄積します。Excelやクラウドの勤怠システムでも十分です。「週単位・月単位」で働きすぎの兆候をチェックする仕組みを設けましょう。
さらに、育児・介護・病気治療などとの両立を支える制度も、社員が安心して働き続けられる環境を整えることとして効果的です。
・時差出勤や早退制度
・時間単位の年休導入
・復職後の短時間勤務や業務配慮
など、個別対応+制度的裏付け(ルール化されている)のバランスを取ることがポイントです。
中小企業にとっても無理のない範囲で、働きながら健康を守れる仕組みを、少しずつ育てていきましょう。
まとめ
「社員が働きやすい会社にしたい」――それは多くの企業が目指す理想ですが、何から取り組むべきか悩む方も多いのではないでしょうか。とくに中小企業では、人手や予算の制約から“理想と現実のギャップ”を感じやすいものです。
そこで労務ができることは、「制度と運用の工夫によって、安心して働ける環境をつくること」です。
まず大切なのが、心理的安全性の確保です。1on1の導入や、NGワード集の配布、相談しやすい社内窓口の明示など、ちょっとした仕組みで「話せる・聞ける」空気が生まれます。
次に、評価やキャリアの透明性。きっちりした制度がなくても、会社として大切にしている行動や姿勢を言語化し、行動目標シートやフィードバック面談を通じて“何を見ているか”を伝えることが信頼につながります。
ハラスメント対策は、制度整備よりも気づきと相談しやすさが肝心です。日頃の言葉がけ、相談担当者の明示、簡単なアンケートなどで未然に防ぐ仕組みをつくりましょう。
働きがいのある職場は、「ありがとう」「助かったよ」の言葉で育ちます。サンクスカードや簡易表彰制度など、小さな称賛の仕組みが社員のモチベーションを支えます。
そして、健康と働き方の両立も重要です。勤怠の見える化、無理をしない風土づくり、両立支援制度の導入など、「安心して長く働ける職場」を意識しましょう。
大切なのは、完璧な制度よりも、「使える仕組み」「伝わるルール」。中小企業の現場に合った、小さな工夫の積み重ねこそが、働きやすさをつくる最善の一歩になります。